2014-07-10 20:15

タイの国境貿易と東西経済回廊

 タイのクーデターから一ヶ月半、軍事政権は今までの政治家が一体何をやっていたんだと思えるほどバリバリ仕事をしている。
そんな話の一つにこんなニュースが流れてきた。タイの国境貿易を振興しようと言うのだが・・

<以下バンコク週報より引用>

タイ軍政、国境貿易拡大に向け検討を指示
09/07/2014
国家平和秩序評議会(NCPO)は7月8日、関係政府機関に対し、近隣国との国境貿易を拡大すべく、国境通行所と関連施設の拡大・改善を検討するよう国家経済社会開発委員会(NESDB)などに指示した。

アーコムNESDB事務局長によれば、国境通行所は、南部ソンクラ県の2カ所、ターク(引用者注:ターク県メーソートの事)、サケオ、トラート3県の各1カ所の計5か所の拡大・改善にまず力が入れられる予定という。また、来年度(今年10月-)はこれら国境通行所と主要都市を結ぶ自動車道が整備される予定とのことだ。

このほか、NCPOは、国境貿易の促進に関連してターク、チェンライ、ムクダハンといった隣国と国境を接する県に経済特区を設けることにも並々ならぬ意欲を示しているという。
(このターク、ムクダハンと言うのは後述する東西経済回廊の西と東の入口である)
http://www.bangkokshuho.com/article_detail.php?id=4151
<引用終り>

この記事を読んで私が率直に感じたのは「この軍事政権、実によく考えている、しっかりしているなあ」という事だった。

このタイの国境に関して古い記事だが、1月の産経にこんな報道が有る。

<以下引用>

政府、アジア「国際経済回廊」を支援 中国に対抗、日印首脳が会談で協議へ
2014.1.24 23:48 [アジア・オセアニア]

 【ニューデリー=岩田智雄】南アジアと東南アジアを結ぶ幹線道や鉄道などの充実を図る「国際経済回廊開発」に、日本が積極的に乗り出す。中国の影響力に対抗して地域の経済発展に協力し、日系企業の活動基盤整備につなげる狙いだ。日本とインドの協力は、25日に訪印する安倍晋三首相とシン印首相との首脳会談でも協議される見通しだ。

 日本の国際協力機構(JICA)は昨年8月から今年3月までの予定でインド、バングラデシュ、ブータン、ネパール、ミャンマー、タイの6カ国を対象に1億円余りをかけ、回廊開発の調査を行っている。

 回廊整備ではアジア開発銀行(ADB)などが先行しており、調査は日本が今後どういった形で協力できるかを探るのが目的だ。16日にはニューデリーで関係国代表者を集めて中間報告セミナーも行われた。

 東南アジアではこれまで、ADBや日本の支援でベトナムからミャンマーまでの東南アジア諸国連合(ASEAN)地域を幹線道路で横断する「東西経済回廊」の整備が行われてきた。インド、ミャンマー、タイの3カ国は2016年を目標に域内をハイウエーで結び、東西経済回廊へつなぐ事業を進めている。
2014-7-10東西経済回廊と3か国ハイウエー

(引用者注:こんな所にインドの「インパール」と言う地名が出てくる。ここはそれだけ地政学上の要衝だという事だろう)

 南アジアとASEAN諸国の境界に位置するミャンマーは過去、軍事政権が野党や民主化運動を弾圧し、欧米の経済制裁を受けてきた。しかし、近年、民主化への努力が進んで制裁が緩和され、両地域の連結性の強化につながるとの期待が高まっている。

 日本企業はタイで自動車産業などに数多く進出している。インドでは昨年10月時点の集計で、進出企業が初めて1千社を超えた。バングラデシュでも繊維産業を中心に投資が増えている。回廊開発が進めば、物流の円滑化など企業の活動環境整備が期待できる。

http://sankei.jp.msn.com/world/news/140124/asi14012423540003-n1.htm

<引用終り>

インドシナ半島を横切り、ベトナムからラオス、タイ、そしてミャンマーへと続く東西経済回廊。
このルートの凄い所は船でマラッカ海峡経由で大回りしていたところが直接行けるようになること。正に夢にルートなのである。

ちょっと古い話を思い出してほしい。麻生さんが外務大臣をしていた平成18年頃、「自由と繁栄の弧」という言葉を聞いた事が有ると思う。
2014-7-10自由と繁栄の弧
この話は今までの日本の政策の基本になっていて、今でも生きている。
安倍さんがアセアンやインドなどを回ってもこれが基本で外交を進めているし。具体的にはこの東西経済回廊などはそれが具体化したものである。
今回の軍事政権もその流れの中で政策を決めていると思われる。

所でどうしてこんなルートが夢のルートなのか、それはインドシナ半島の地理を見てみないと分からない。
最初にこれがインドシナ半島の山脈の図。
2014-7-10newインドシナ半島の山脈

チベット高原辺りを出発点にしてヒマラヤ山脈、カラコルム山脈、崑崙山脈が東向きから大きく曲がって南に下ってきている。
これがベトナム、ラオス、タイ、ミャンマーの国を形作る大きな要因になっている。
ベトナムにしてもラオスにしても国土は極端に南北に長い。そこにこんな地形上の秘密が隠されている。

そしてタイ領内での山脈はこんな風
2014-7-10newタイの山脈

タイ北部からタイ中部にかけて、殆どの山脈が南北に走っている。
又その間を色んな川が流れているが殆どみんな南北に流れている。その終着点がバンコクである事が分かると思う。

タイはその地形から昔の水運の時代、現在の陸上輸送の時代を通じてすべてこの南北のルートが交通・物流の基本だった。
この事がタイの国民性にまで影響を及ぼしているのだが、まあ此処ではそんな事は省略します。
此れを東西に通るという事は何本かの川を渡り、山脈をいくつも越えねばならなかった。
現在でもこの東西の交通ルートは貧弱そのもの、そして当然ながら人の往来も少ない状態である。
そこに東西経済回廊を作る、そして南シナ海からベンガル湾に直接出られるルートを作る。
この地域にとってはまさに画期的な事である。
日本で田中角栄が新潟まで新幹線をひいた、これで新潟は大いに活性化したのだが、恐らくそんなインパクトをタイに与えるのではないだろうか。


ではこのルートの現在は如何なっているかというと。

これはタイとミャンマーの国境メーソートの国境検問所。
2014-5-25メーソートからターク-01

タイ・ミャンマー国境の友好橋、実はこの橋強度が不足し、大型車は荷物を中小型車に積み替えないと通れない。
(最大重量は総重量25トンなのだそうだ)
2014-5-25メーソートからターク-02

ミャンマーの貧しい人たち、これは10年ほど前の写真。
国境の川の河原でキャンプしている。多くはミャンマーの少数民族らしい。
2014-5-25メーソートからターク2-0
この後ミャンマーから大量のミャンマー人がタイに仕事を求めてやってきた。現在その人数は合法・非合法合わせて200万人とも300万人とも言われている。


こちらは国境からタイ側に行った頼んトンチャイ山脈越えのルート、峠の山岳民族の市場
2014-5-25メーソートからターク03

上の写真の市場の裏手、見渡す限り山、山また山。
2014-5-25メーソートからターク-05

タイ側では着々と道路の拡幅工事
2014-7-10東西経済回廊のタイ側

しかしミャンマー側は道路も荒れ放題。
この道路はタイの援助で国境から18キロまで整備された道路で2006年完成。しかしこの写真の様に2012年にはこんなモノ。これはタクシン政権時代に整備されたもので恐らく汚職で手抜き工事の為こんなモノになったと思われる。
タクシン時代の負の遺産であろう。
2014-7-10東西経済回廊のミャンマー側1

上の写真の道路の終わり、此処から先は未舗装になる。
2014-7-10東西経済回廊のミャンマー側2

此れが現在のミャンマー側テナセリム山脈越えの道路状況、
未舗装で道幅が狭いため、1日おきに西行き、東行きの一方通行。
2014-7-10東西経済回廊のミャンマー側3
そしてこんな難所が2015年春には新しいバイパスが完成する予定になっている。

こんなタイミングでも国境貿易振興策、正にタイにとってもミャンマーにとっても待望の政策になると思われる。
先が楽しみな政策ではある。





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コメント

インパール作戦は終わらない【果たされたインドとの約束】
https://www.youtube.com/watch?v=4FKyQRmcFqg
     ↑
この悲願が別の形で達成されるのですね。
感動しました。
  1. 2014-07-10 21:01
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  3. taigen #-
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To:taigenさん

> インパール作戦は終わらない【果たされたインドとの約束】
> https://www.youtube.com/watch?v=4FKyQRmcFqg
>      ↑
> この悲願が別の形で達成されるのですね。
> 感動しました。


インパールと言う地名は恐らく首相や政府関係者の口からは今後とも多分出ないでしょう。
しかし日本が泰麺鉄道とインパール作戦で目指した欧米植民地主義からの解放という路線は形を変えても生き続けると思います。
私もこの話を色々見ていて実に遠大な構想、考えた人は只者ではないと思いました。

kazkさんへのコメントにも書きましたが、日本人の目指す社会は共存共栄。
これからも強欲資本主義との軋轢が有るでしょうが、日本の目指すものは世界で認められてくると思います。
  1. 2014-07-10 21:29
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  3. 短足おじさん二世 #-
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これを自力でできるんでしょうか。

この東西回廊構想にしろ、クラ地峡運河にしろ出されるアドバルーンはそれなりに立派ですが果たして現地の人々の「自力」で出来るんでしょうか。
つまり世界銀行あたりから借金するのは良いし、先進国から技術指導を受けるのもいいでしょう。

それは別としてプランニングから施工までを現地の業者でやり曲がりなりにもつくり上げることが出来るんでしょうか。これにもおそらく外資の導入といったことが見え見えでしてそれがおかしいと思わんのか、というのが小生の意見なのです。

明治大正の日本人たちはこの辺り石にかじりついても自力でやったでしょう。旧植民地人と言ったらタイ国の人々には失礼でしょうがこの辺りの根性の無さが本当の近代化を阻んでるのではないでしょうか。
  1. 2014-07-10 23:37
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  3. kazk #-
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インパール作戦と遺骨収集

帝国陸軍の3大バカ参謀と司令官のコンビが多くの兵士を戦病死に追いやったイ作戦。遺骨の収集は完了しているのでしょうか。
硫黄島、ニューギニアにはまだまだ多くの兵士の遺骨が眠っています。

すべての遺骨を祖国に戻し、慰霊を祀るのは戦後の繁栄を享受している子孫の義務です。
  1. 2014-07-11 07:01
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  3. Rascal #-
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Re: インパール作戦と遺骨収集

> 帝国陸軍の3大バカ参謀と司令官のコンビが多くの兵士を戦病死に追いやったイ作戦。遺骨の収集は完了しているのでしょうか。
> 硫黄島、ニューギニアにはまだまだ多くの兵士の遺骨が眠っています。
>
> すべての遺骨を祖国に戻し、慰霊を祀るのは戦後の繁栄を享受している子孫の義務です。


インパール作戦の全ての遺骨収集については私も知識が有りません。
しかしタイ北部のビルマとの国境の村クンユアムには当時の日本人とタイ人の交流などを記念し、日本兵が残した色んな品を保管している戦争博物館が有ります。
以下参照ください。
http://dogma.at.webry.info/201101/article_1.html

此処に記述が有りますが、この博物館を作った人(チューチャイさん)は平成18年6月にタイを訪問された天皇陛下と面会しています。詳細は上掲リンク先参照ください。

又ビルマ・ミャンマーには戦後多くの日本人が慰霊に訪れています。
又ビルマの竪琴の水島上等兵のモデルと言われる方などは現地に学校を寄付しています。
ですから遺骨収集は完璧かどうかは分かりませんが相当進んでいるでしょう。
がしかし、今回の3か国ハイウエー建設となれば、未来志向の工事と合わせ、先人の遺徳をしのぶ、両方が必要ですね。
  1. 2014-07-11 09:51
  2. URL
  3. 短足おじさん二世 #-
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Re: これを自力でできるんでしょうか。

> この東西回廊構想にしろ、クラ地峡運河にしろ出されるアドバルーンはそれなりに立派ですが果たして現地の人々の「自力」で出来るんでしょうか。
> つまり世界銀行あたりから借金するのは良いし、先進国から技術指導を受けるのもいいでしょう。
>
> それは別としてプランニングから施工までを現地の業者でやり曲がりなりにもつくり上げることが出来るんでしょうか。これにもおそらく外資の導入といったことが見え見えでしてそれがおかしいと思わんのか、というのが小生の意見なのです。
>
> 明治大正の日本人たちはこの辺り石にかじりついても自力でやったでしょう。旧植民地人と言ったらタイ国の人々には失礼でしょうがこの辺りの根性の無さが本当の近代化を阻んでるのではないでしょうか。


素朴な疑問ですが、当然ながら現地の人にはできません。
しかしそこは日本の事、キチンと援助をしています。
今この国に本当に必要なのは何か、それを考えたうえで必要なインフラなどを援助しています。
例えばこの東西回廊ですが、東の入り口はタイとラオスの国境を流れるメコン川に架かる橋です。
第二タイラオス友好橋と言いますが、日本の援助で出来ました。
以下のエントリー参照ください。
http://tansoku159.blog.fc2.com/blog-entry-735.html

日本の援助の凄い所はたんに橋を作ると言うだけではない、それをもとに周辺のインフラをどう整備するか、そんな事まで含めて援助しています。
タイ側で自主的にやれる道路の整備などは進めていますし、この橋からミャンマーまでのスーパーハイウエー構想も進めています。

更に面白い事に中国がこの構想に対抗して第3タイラオス友好橋、第4タイラオス友好橋を慌てて建設しました。
中国伽藍のインフラ整備の面白い所は先ず値段が安い、多分日本モノの6掛けとか、そんなレベルでしょう。
しかも只々作ればいいので、周辺や将来構想は関係ない。凄いモノを作っています。

残念ながらkazkさんが心配されるように、自前でこんなモノを作るのは百年早い、間違いないでしょう。
こんなモノが自前で出来るようになるにはあと何世代もかかると見ています。
でも他の国と違い、タイには良い事を教わったからきちんと守ろう、こんな意識は有ります。
こんな意識さえない他の国に比べれば、まだマシなのかもしれません。
  1. 2014-07-11 10:31
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  3. 短足おじさん二世 #-
  4. 編集

こんにちは。

これまで、各国のクーデターによる軍事政権に良くない印象を持っていました。
が、国によっては現政権を憂いて国をよくするために立ち上がった輩との印象を 当ブログでのタイを中心とする東南アジア情勢を拝読するにつれ持つようになりました。
中後進国においては軍関係者は、政権関係者より大量の情報を持ち、国の現状と行く末を冷静に見ているのでしょう。

日本のODAや有償無償円借款、その他海外経済開発協力機関は、
「ただそこに物を作ればいい」
だけではなく、周辺のインフラや地域の自立を手助けしてきたと聞き及びます。
高速鉄道も大事ですが、今後も地道に続けて頂きたいものです。
  1. 2014-07-13 17:39
  2. URL
  3. koguma #-
  4. 編集

To:koguma さん

> こんにちは。
>
> これまで、各国のクーデターによる軍事政権に良くない印象を持っていました。
> が、国によっては現政権を憂いて国をよくするために立ち上がった輩との印象を 当ブログでのタイを中心とする東南アジア情勢を拝読するにつれ持つようになりました。
> 中後進国においては軍関係者は、政権関係者より大量の情報を持ち、国の現状と行く末を冷静に見ているのでしょう。
>
> 日本のODAや有償無償円借款、その他海外経済開発協力機関は、
> 「ただそこに物を作ればいい」
> だけではなく、周辺のインフラや地域の自立を手助けしてきたと聞き及びます。
> 高速鉄道も大事ですが、今後も地道に続けて頂きたいものです。


民主主義というのは衆愚主義でもあります。
国民の民度が十分発達した国では民主主義はとても良い制度です。
しかし国民が政治とは何かが分からない所では民主主義は機能しません。
日本ならそんな可笑しなことは無いと思っていましたが、何と日本でもそのおかしな事が起こりうることが昨日証明されました。
大きな湖が泣いている・・・ 涙の瀬田の夕照でしょうか。
でも東京の世田谷のズベ公都議とか兵庫の号泣建議とか、愛知県だって名古屋弁市長とか・・・

まあそんな事で軍事クーデターも一概に悪いとは言えません。
特にタイの場合、国王の存在が大きいです。
報道されませんが、国王は軍事クーデターに対し「国民和解」を条件に付けたと思います。
ですから国軍はタクシン派排除を進める一方で政治顧問にタクシン派を重用しています。
多分次のステップでタクシン派・反タクシン派を集めた挙国一致内閣を作ると思います。

発展途上国の場合、独裁政権は悪くありません。
少なくともマトモに国内を統治してくれます。
アラブの春で独裁政権を倒した国々のその後の混沌を見れば良く分かります。
恐らく後世の歴史家はアメリカの謀略を口を極めて罵るでしょう。

今アラブの人たちは自分たちが倒した独裁政権を懐かしんでいる、少なくともマトモニ飯が食えた時代だったと。今は命の危ない時代になってしまったと後悔している筈です。
  1. 2014-07-14 07:37
  2. URL
  3. 短足おじさん二世 #-
  4. 編集

参考になります。時間のある時にじっくり読ませていただきます。
  1. 2014-09-02 17:07
  2. URL
  3. NINJA300 #/xzFVZWc
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To:NINJA300 さん

> 参考になります。時間のある時にじっくり読ませていただきます。


承知しました。
こちらこそ、よろしくお願いします。
  1. 2014-09-03 07:49
  2. URL
  3. 短足おじさん二世 #-
  4. 編集

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