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2018-08-29 16:53

ラオスのダム事故についてのスクープ記事


 ラオスのダム事故について色々書いてきたのだが、前回既に予備調査が始まっていて、調査チームは国際大ダム会議(本部:フランス)と日本の東京電力であると書いた。所でその日本が如何してここに出てきたのか、そんなスクープ記事が出てきた(コメント欄でkazkさんよりの情報をいただいた)。

そこでこのスクープ記事を紹介したいのだが、この記事、スクープもだが他の部分にはかなり古い情報や間違った記載もある。そこでそんな事を注釈をつけながら書いてみたい。


話の前段として、今回の東電の調査参加について、8月26日のエントリーで書いたように唯一の報道はヴィエンチャンタイムズなので、その要点だけ。
<以下適当に翻訳し抜粋引用>
 トンルン首相は、7月23日にアタプー省のダム崩壊の本当の理由を明らかにするため、ラオス当局と緊密に協力するよう、国際専門家に要請した。トンルン氏は、国際大ダム会議(ICOLD)と東京電力(TEPCO)のメンバーからの表敬訪問を受けての表明。(8月21日)
8月22日の政府のウェブサイトの声明によると、同グループは、ICOLDの上級専門家、Anton J. Schleiss教授をリーダーとし、ラオス当局者を含む他の専門家と提携して、ダム崩壊の原因を調査する。
・・・中略・・・
Schleiss教授は、ダムの崩壊の正確な状況はまだ不明であるが、事故の真の理由を発見するために10月に調査を再開すると述べた。(引用者注:現在ラオスは雨季で調査には不向き、9月いっぱいで雨季は終わる)・・・以下略
<引用ここまで>

こんな事で唐突に東電が出てくる。その裏話のスクープ記事がアゴラに載っていた。
尚この記事を書いた酒井 直樹氏については私はまったく知識がない。唯一アゴラの人物紹介に「株式会社電力シェアリング代表」とあるだけなので、電力関係に人脈のある方なのだと思う。

以下アゴラのスクープ記事、日経記事は青字、それに対する私のコメントは黒字にします。

では最初にそのスクープ記事

<以下アゴラより引用>
http://agora-web.jp/archives/2034425.html

「韓国ダム」決壊で孤立のラオスに日本が救いの手
2018年08月26日 11:00

酒井 直樹  
株式会社電力シェアリング代表

これは信頼すべき筋から聞いたスクープ記事だ。これは国連筋から得た情報だが、情報源を秘匿するために配慮して書く。

先月、ラオス南東部のアッタプー県でセピアンセナムノイダムが決壊し、辺の村落が水没、少なくとも27人が死亡、3千人以上が家を失った。世界でも日本でも大々的に報道されているのでみなさんご存知だろう。ただ、報道されていない熾烈な外交ゲームが水面下で今現在繰り広げられている。

(私のコメント:「死者が少なくとも27人」、これは相当前の情報だ。現にこの記事で引用した8月24日付の日経の記事では死者は少なくとも39人になっている。それから「の村落が水没」、これは「周辺の村落が水没」の間違いと思うが、現地の地図も見ないでこんな事を言うものではない。ジャーナリストの風上にも置けない奴だ。被害にあった六つの村は決壊したダムから30キロから50キロ離れている。標高差は800m位はある筈だ。想像を絶する遠方のダム決壊事故だったのだ)

決壊したダムの完成予想図(セピアン・セナムノイ電力会社のホームページから)
2018-8-28セナムノイダムの完成予想図 

(私のコメント:この写真のダムは決壊したダムではありません。このダムは特殊な構造で、メインダムは確かにこのダムですが、他にサドルダム(副ダム)が6か所あります。決壊したのはそのサドルダムD、全く場所も構造も違います。後ほど詳しく説明します)

この発電所は、韓国大手財閥SKグループのSK建設と韓国西部発電、タイ政府系の発電大手ラチャブリ電力、ラオスの国営企業が合弁で建設していた。筆頭株主は26%を出資するSK建設。2013年に着工し、19年の稼働を目指して建設を進めていた。

(私のコメント:この記事も正確ではありません。こう書くと4社によるJV(Joint Venture)での受注のようですが、このプロジェクトはBOT方式(=Build、Operation、Transfer)と言って、この4社が自己資金で建設し、長年操業して投資額を回収し(この場合は27年間)、その後施設一式をラオス政府に引き渡す契約。だからこのダムは51%は韓国のものです)

8月24日日経新聞に岸本まりみ記者の以下のような署名記事がとても控えめな扱いで掲載された。

ラオスの水力発電計画、宙に ダム決壊から1カ月

ラオス南部で建設中のダムの決壊事故から23日で1カ月が過ぎた。同国政府は世界銀行の支援を受け、新たなダム建設の安全基準の策定を急ぐ。計画の認可体制についても見直しを進めており、新規のダムは事実上建設が延期されている。水力発電の売電収入で稼ぐラオス政府の構想は宙に浮いた状態だ。政府は外貨獲得のため外国人観光客の誘致などを急ぐが、課題も多い。

記事はこう結ばれている。

工業製品や消費財などの多くを輸入に頼る小国ラオスにとって、外貨の獲得は喫緊の課題だ。収入の柱になるはずだった水力発電計画が壁に直面する中、第2、第3の収入源の育成が急がれる。

しかし、世界のネットメディアでこの事故が議論されているポイントはそこではない。それは、「人災」か「天災」かという一点だ。米紙ニューヨーク・タイムズは「欠陥工事か」と報じている。何故か日本のメディアは、今回は頰被りでこの点を一切報じていない。社会正義とは一体なんなんだろうか?メディアの役割とは一体なんなんだろうか?

ラオス政府や国民の怒りは高まっていて、事故を「人災」と断定し、韓国側に対し、罰則的ともいえる「特別補償」を求めている。欧米メディアは「欠陥・手抜き工事」の可能性を報じ、工法自体への疑問も浮上している。このダムはアースダム方式と呼ばれ、ダムの形式として最も古い土でできたダムで、「地震で壊れてしまう可能性がある」「洪水時の異常出水で越水して決壊してしまう可能性がある」のは業界の常識とも言われる。今回の事故は、韓国企業による海外インフラ受注競争にも、影響が出かねないだけに韓国サイドは、「天災」(英語でフォースマジュール)つまり予期できなかった異常事態なので自分たちには責任がないとの主張を展開している。何度もいうが日本のテレビや全国紙はこれを一切報道していない。
(引用者注:Force Majeure(フォース・マジュール)」とは、「不可抗力」を意味するフランス語で契約などの用語)

ラオス政府は、こうしたラオスと韓国の当事者二国間の水掛け論に終止符を打つため、信頼の置ける第三者による客観的調査と評価を国連などの国際機関に必死になってお願いして回ってきた。それが社会正義であり、そのために国連などの国際機関は世界中の国民の税金の下に存在しているというのはみなさんもきっと共感してくれるだろう。

ところが、国連はそんなに綺麗な組織ではない。私も類似した国際機関に17年間勤めていたのでその裏と表を熟知している。そこは、「世界の正義・公正の実現」を看板に掲げるが、国益と国益がぶつかり合う情報戦の戦場であり、各国の外交官が角と角を付き合わせて自国を少しでも有利にするためのゲームを日々行なっているタフでワイルドな場所だ。実は、韓国はこのような情報戦や外交戦術に非常に長けている。各国ともそのような存在感の高い韓国を「忖度し」、ラオスが「第三者委員会での調査・仲介を」と涙ながらに訴えてもビクともしない。

現場でリアルな情報に触れている日経新聞の記者がそのような現場を知らないはずがない。もし知らなかったらメディアを名乗る資格はない。そして忖度の結果あのような読者が読んでも争点がなんだかわからない記事になる。日経は記事化しただけまだいい。他の大手新聞やテレビ番組は一切取り上げずに、日々「森友・かけ・財務省」等々の日本政府のどちらかというと軽度な問題を「忖度・忖度」とあげつらう。忖度しているのはあなたたちの方だ。偽善者のレッテルを貼られても仕方ないのではないか。フェイクニュースとどこが違うのか。国民の知る権利を阻害しているのはあなた方大手メディアだ。

さて、八方塞がりで窮地に追い込まれたラオス政府とラオス国民に、「私たちが中立の第三者として入ってあげましょう」と言ってきたある国がある。もちろん正式な外交ルートではなく企業の皮を被ってだが。その国の名前は中国だ。

ラオス政府はこれを断る。これ以上中国に影響力を行使されたら国を乗っ取られてしまうからだ。そして、ラオス政府が助けを求めた国がある。

それは日本だ。

国連筋によると、ラオス政府は事故直後から安倍政権に第三者の仲介役の段取りをするよう助けを求め続けていたそうだ。しかし、日本としても火中の栗を拾うには大きなリスクとコストが付きまとう。今、朝鮮半島の非核化や拉致問題を巡って韓国との距離を縮めているところだ。中国、そして米国と熾烈な外交ゲームを繰り広げている。こんなところで、ホワイトナイト(白馬の騎士)として仲裁役に立つと、韓国との外交問題に発展しかねない。

・・・中略・・・

そこで首相官邸は、日本が前面には出ないが、欧米等と連携して、この問題に当たる座組みを考え、先週日本や国際組織の非政府専門家を現地に赴かせた。表向きは政府は絡んでいない。政府とは無関係の法人の専門家が詳細に客観的に情報を分析した。

彼らは、現地をつぶさに冷静に確認した後、ラオスの首都ビエンチャンの首相官邸に赴き、トーンルン・シースリット首相に直接面会しその結果を口頭で伝えた。もちろんその場に現地の日本大使館関係者も日本政府系機関職員も同席していない。

安倍首相は大変したたかだ。表向きは、韓国と直接対峙しない。中国のこれ以上のインドシナ半島への侵食を食い止められる。ラオス政府や国民からは感謝される。それは米国の影響力が低下するアジアの新秩序形成において、大変意義深い良手である。

多分、早晩、国際的な陣容で第三者評価委員会の立ち上げが世界的なニュースとして駆け巡ることになるだろう。日本ではあまり報道されないだろうが。

これが、外交の現場で起きていることだ。私もリスク覚悟で私なりの正義を貫くため、こうした情報をみなさんに提供していきたい。
<引用ここまで>



私のコメント
此処でこの事故の全体像から見てみたい。

これは7月25日の記事に有った地図で、死者行方不明者数などが全体像不明な時のもの。
死者数は8/29現在(公式発表は8/18付けが最後)、死者39、行方不明97という。

2018-8-28ラオスのダム決壊事故関連地図7月25日 

ダムは図の一番上、Xe Namnoy Damである。このダムには左側にサドルダムが6か所あり、そのサドルダムD(赤色表示)が今回決壊した。
サドルダムDから青い点線が左に延びている。今回のダム決壊で新たに出来てしまった川だ。
この地図の真ん中、広い高原に降った雨水は以前は右側Xe Namnoy川は右へ(東側へ)。
左側Xe Pian川の水は左へ(西側へ)流れていた。しかし今回の事故でこの流域の水は大部分左側(西側)へ流れることになった。下流の被災地の水が簡単にひかないのはその為でもある。
尚このボラヴェン高原はラオスで一番降水量の多い所でその年間降水量は3500㎜という。日本で一番雨の多い町の一つである三重県の尾鷲市が年間3800㎜、東京都区部だと1500㎜、いかに多いか分かるだろう。

問題のダムから90キロほどの所にラオス第二の都市パクセーがあり、そこの気候はこうなっている。
2018-8-29パクセーの気温と降水量 
ラオスは一般に雨季は5月~10月と言われているが、これを見れば9月いっぱいで大体雨季は終わるのは理解できよう。尚SK建設側は異常な豪雨による不可抗力と言っているらしいが、そもそもラオスの雨季は豪雨が降る。ましてやボラヴェン高原はラオスで一番雨の多い所。その雨量を狙ってダムを作ったという事を忘れてはいけない。



これがメインダムのXe Namnoy Dam (丁度満水の様子)
2018-8-28セナムノイダムの満水状態

左側から勢いよく水が出ていますが、洪水吐きのクレストゲートです。この位置で満水の湖面レベルが決まります。これより湖面を下げるためにはダムの堤体下部に導管を設置し、そこにゲートをつけて(コンジット・ゲート)、そこから水を排出せねばいけませんが、良く分かりません。これから調査で問題になるところの一つでしょう。

これがサドルダムDの建設中の所 
2018-8-9サドルダムD1 

この写真の左側がダム湖側、右側が下流側。サドルダム下流の森林の中に小さな沢がある筈。少しずつは水が流れていたのだろうが、川にはなっていなかった模様。

2018-8-10サドルダムD8 

これがダム決壊後の写真。以前は森に隠れていた小さな沢が大きな川になってしまった。

そして被災地の状況はというと

2018-8-29被災したアッタプーよりボラヴェン高原ロイター画像

これは下流の被災地からボラヴェン高原を見たところ。撮影地点はロイターでは記載されていないが電線のあるところなどから下流の被災地であることが分かる。決壊したダムはこの山の上、はるか遠く約50キロほど離れている。標高差は800mほどだ。
日本にこのダムを当てはめてみると、軽井沢辺りに巨大ダムを作り、碓氷峠に700mの立て坑を穿ち、安中あたりに発電所を作った。そのダムが決壊したので高崎辺りが水没した。こんな感じでしょうか。浅間山の爆発以上と言えるかもしれません。 



アゴラの酒井 直樹氏の記事で引用している日経記事です。参考までに全文引用しておきます。
<以下日経より引用>
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO34505440T20C18A8EAF000/
ラオスの水力発電計画、宙に ダム決壊から1カ月 
2018/8/24 6:30
 
 【バンコク=岸本まりみ】ラオス南部で建設中のダムの決壊事故から23日で1カ月が過ぎた。同国政府は世界銀行の支援を受け、新たなダム建設の安全基準の策定を急ぐ。計画の認可体制についても見直しを進めており、新規のダムは事実上建設が延期されている。水力発電の売電収入で稼ぐラオス政府の構想は宙に浮いた状態だ。政府は外貨獲得のため外国人観光客の誘致などを急ぐが、課題も多い。

 7月のセピアンセナムノイダムの決壊事故は周辺の村に甚大な被害をもたらした。ラオス国営通信によると少なくとも39人が死亡、数十人が行方不明のままだ。

 これまでダム建設の認可は大規模ならエネルギー・鉱業省、小規模なら各県の認可で建設できていた。関係者によると相次ぐ事故を受け、政府内ではすべての権限を首相府に移すことも検討されている。認可体制が定まらない中、新規計画の承認は事実上棚上げになっている状態だ。

 ただ、承認済みだが未着工のダムの扱いなどは明確に定められておらず現場は混乱している。ラオス政府は2030年までにダムを159カ所新設する計画を打ち出しており、すでに投資の承認を受けたダムはラオス国内に相当数あるとみられる。日本では関西電力がダムを建設中で「今のところ作業に遅れは出ていない」(同社)という。

 政府は事故の再発防止のため対策を急ぐ。設計や施工の安全基準の改定作業は世界銀行などの協力を受けて進められている。2017年に北東部で起きた別の小規模ダムの決壊事故を受け、ラオス政府が世銀に依頼していた。7月の事故を受けて実施されることになった全国のダムの再点検も並行して進められる予定だが、具体的な作業スケジュールなどは示されないままだ。改定の内容次第では売電で外貨収入を増やす狙いだったラオスの長期計画に乱れが生じる可能性がある。

 周辺国はラオスの対応を好意的に受け止めている。タイ、ラオス、カンボジア、ベトナムの下流域4カ国で構成するメコン川委員会は「ダム建設の延期と見直しの決断を支持する」と声明を発表。ダム開発計画の見直しに協力する姿勢を示した。

 産業の少ないラオスで政府が売電に代わる外貨獲得手段として力を入れるのが観光だ。17年にラオスを訪れる観光客が9%減少したこともあり、18年は観光キャンペーン「ビジット・ラオス・イヤー」を展開。年間500万人の訪問を目標に掲げ、世界遺産のルアンプラバンなどへの観光客誘致を急ぐ。

 8月には日本政府の支援を受けてビエンチャンの国際空港の受け入れ能力を拡大し、外国人観光客の受け入れ体制を整えた。内陸国のラオスは集客の目玉となるビーチリゾートなどがなく、各地の祭りを核にイベントを企画する。

 海外からの投資誘致のために設けた経済特区も思うように企業の進出が進まず、空きが目立つ。5月に3年ぶりに最低賃金を引き上げたことも、人件費の増加を嫌う企業にとってはマイナス材料になった。

 工業製品や消費財などの多くを輸入に頼る小国ラオスにとって、外貨の獲得は喫緊の課題だ。収入の柱になるはずだった水力発電計画が壁に直面する中、第2、第3の収入源の育成が急がれる。

  1. ラオス
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コメント

>軽井沢辺りに巨大ダムを作り、碓井峠に700mの立て坑を穿ち、安中あたりに発電所を作った。そのダムが決壊したので高崎辺りが水没した。


 軽井沢・薄い峠・安中・高崎をルート検索し、航空写真で見てみて初めてラオスの被害の大きさを感じる事が出来ました。マスコミでは書いてくれない、だけど必要なこういう例えをして下さると助かります。
  1. 2018-09-01 08:37
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  3. 都民です。 #-
  4. 編集

To:都民です さん

> >軽井沢辺りに巨大ダムを作り、碓井峠に700mの立て坑を穿ち、安中あたりに発電所を作った。そのダムが決壊したので高崎辺りが水没した。
>
>
>  軽井沢・薄い峠・安中・高崎をルート検索し、航空写真で見てみて初めてラオスの被害の大きさを感じる事が出来ました。マスコミでは書いてくれない、だけど必要なこういう例えをして下さると助かります。



日本のメディア記者諸氏に一番足らないのは三現主義、つまり現地(又は現場)、現物、現実、この三つです。
ですからいい加減なフェイクニュースにあっさり騙され、それのお先棒を担ぐ。

今回の件で言えば、鉄砲水に襲われ被災した地域は水田耕作する人たち。一方ダムのあるボラヴェン高原には未だに焼き畑農業を営む少数民族がいる。こんな現実がこれからさらに厄介な問題を生むのは目に見えるわけですが、日本の机上論命の記者さんたちには何時まで経ってもわからないですね。
  1. 2018-09-01 16:49
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  3. 短足おじさん二世 #-
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